遠い昔からの物語

慰問袋を縫う手を止めてこれを読んでいたら、彼の(おとな)いの声がしたため、慌てて慰問袋の中へ放り込んだのだった。

それを、すっかり忘れていた。

わたしの顔が夕日のように真っ赤に染まり、全身が総毛立った。

彼は堰を切ったように、大きな声で笑い出した。
神経質そうだった面立ちは、今や全く影を潜めた。

わたしがお茶を出す前から、気づいていたに違いない。

こんな本を読む女が、しなしなとお茶を出す姿を見て、さぞ滑稽だったことだろう。

わたしは身を伸ばして、座卓の向こうの彼の手から、本を引ったくった。

そして、伯父の本棚へ駆けて行き、本を押し込んだ。笑い声はまだ続いていた。

この非常時に、こんな国賊のような本を読んでいたから、バチが当たったのだ。

金輪際、このような本は読むまい。

わたしは固く決心した。

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