遠い昔からの物語
◇第五話◇
その週の日曜日、昼下がりに彼はまたやってきた。
ところが、休みの日はいつも家にいるはずの廣子が、今日に限っていなかった。
伯父は伯母に云いつけて一升瓶を持って来させた。仕舞い込んでおいた、取って置きの日本酒だった。
それを、とくとくとく……と注ぎながら、
「廣子は、神戸から来んさった武藤少佐の奥さんの薫子さんに会いに出かけとるけぇ」
と、すまなそうに云った。
「武藤少佐……あぁ、兄貴の相棒の神谷大尉じゃのう。確か、一人娘と結婚して相手方の姓になりんさったな」
彼は合点がいったような顔をした。
「兄貴と一緒の艦で戦死して、同じく一階級特進したけぇ、少佐か……神谷 稔少佐の奥さんが来んさったんか」
そして、注がれたお酒をくーっと飲み、
「……美味い。今じゃもう手に入らん酒を飲ましてもろうて、戦場でえぇ働きができそうじゃ」
満足そうな笑みを浮かべた。