遠い昔からの物語

「武藤少佐の(おごう)さんは、三つになる男の子の顔を、廣子に見てもらいたいから云うて、汽車の切符もなかなか取れんし、もんすご込んどるんに、わざわざ連れて来ちゃってねぇ」

今度は伯母がお酒を注いだ。

「廣子の子も、無事生まれとりゃ、そんくらいになりょったはず……」

伯母の目に涙が浮かんだ。

寬仁(ともひと)君のめでたい門出を祝っとるんじゃけぇ、辛気臭い顔すな」

伯父が渋い顔で(たしな)めた。

伯母は目頭を割烹着の端で、さっさっと拭い、

「寬仁さん、持って来ちゃった千人針はしっかり預かりましたけぇ」

気を取り直して云った。

< 138 / 230 >

この作品をシェア

pagetop