遠い昔からの物語
「武藤少佐の奥さんは、三つになる男の子の顔を、廣子に見てもらいたいから云うて、汽車の切符もなかなか取れんし、もんすご込んどるんに、わざわざ連れて来ちゃってねぇ」
今度は伯母がお酒を注いだ。
「廣子の子も、無事生まれとりゃ、そんくらいになりょったはず……」
伯母の目に涙が浮かんだ。
「寬仁君のめでたい門出を祝っとるんじゃけぇ、辛気臭い顔すな」
伯父が渋い顔で窘めた。
伯母は目頭を割烹着の端で、さっさっと拭い、
「寬仁さん、持って来ちゃった千人針はしっかり預かりましたけぇ」
気を取り直して云った。