遠い昔からの物語

わたしは千人針に取りかかった。

と云っても、玉結び一つ(こしら)えるだけだからじきに終わるのだが、彼はその間、わたしの手元をじーっと見つめていた。

わたしは、刺した千人針を彼に返した。

彼は満足げに微笑みながら「ありがとう」と受け取った。

人懐っこそうな、少年のような笑顔だった。

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