遠い昔からの物語

突然、どういうわけか、居心地の悪い心持ちになった。

なので、目を逸らして、

「本当に、わたしなんかより、寅年の女の方にお頼みなった方がよろしいのに」

つい、厭味(イヤミ)っぽく云ってしまった。

すると、彼は、

「大丈夫、ぼくが寅年だから」

と、悪戯(いたずら)っ子の顔になって、声を立てて笑った。


しかし、次の瞬間、急に表情を引き締めて呟いた。

「……きっと、(かえ)って来る。
僕は、兄貴のようには絶対にならない」


まるで、自分自身に云い聞かせているみたいだった。

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