遠い昔からの物語

そして、次に読む本を、背表紙を眺めて物色し始めた。

「……あっ、これ、読んでみたかったんだ」

彼は「珈琲(コーヒー)哲学序説」という本を抜き出した。著書の名は寺田寅彦とあった。

「日本人の哲学者の本なの」

わたしが何気なく尋ねると、

「違う、物理学者さ。漱石の弟子で随筆家でもあるんだ。それに、これは哲学書じゃないよ」

彼は苦笑して肩を(すく)めた。

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