遠い昔からの物語
「もっとたくさん持ってお帰りになればよろしいのに」
手にした「珈琲哲学序説」だけを持って帰ろうとする彼に、わたしは云った。
彼はいつも、一冊ずつしか持って帰らない。だから、またすぐに来なければならなくなるのだ。
「いいんだよ。持って帰っているときに家に空襲が来て、焼いてしまったら申し訳ないからね」
そう云ってから、あの悪戯っ子の顔をして、わたしを見た。
「それに、きみにもたくさん会えるしね」
……よく云うわ。
廣ちゃんのことが好きなくせに。