遠い昔からの物語
◇第八話◇
「……なにをおっしゃるの。そんなの、無理だわ」
仰天したわたしは、即座に叫んだ。
「この非常時に、若い男女が二人して、人前で歩けるわけがないでしょう。
世間がなんて云うか……それに、憲兵さんに見つかったら、きっと大事になってよ」
すると彼は、こともなげに云った。
「大丈夫さ。咎められたら、兄妹だって云えばいい」
……呆れた。
そんな出任せが、通用すると思っているのかしら。家に問い合わせれば、すぐに嘘だと知れてしまうじゃないの。
「とにかく、東京の両親を心配させるようなことは、したくありませんの。悪いけれど、一人で行ってちょうだい」
わたしは、にべもなく断った。