遠い昔からの物語
「防空壕は家の裏かい」
彼が訊いてきたので、わたしは肯いた。
家の裏の庭を潰して耕した、畑の片隅に掘ってあった。
「よし、きみは早く、防空頭巾を取って来るんだ」
わたしは廣子と一緒に使っている部屋へ行き、防空頭巾をつかんで被った。
それから、台所へ向かった。
竈や七輪が大火を引き起こした、大正の大地震を経験した母は、日頃から火の元をしきりに気にしたので、わたしにもその癖がついていた。
わたしは、竈の火を確認しながら、一刻も早く、空襲警報が解除になることを願った。
でないと、
また、「あれ」がやって来る……