遠い昔からの物語

「なにをしてるんだ。早く防空壕へ入りたまえ」

なかなか姿を現さないわたしを探しに、台所へやってきた彼は、苛立った声をあげた。

「……今、行きますから……どうぞ……お先にお入りになって」

わたしは彼にそう云うと、

「なにを悠長なことを云ってるんだ。それに、女を置いて、男が先に入れるわけがないだろう」

彼は声を荒げて、わたしの方へずんずん歩いてきた。

そして、わたしの手首を掴んだ。

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