遠い昔からの物語
「……わたし、やっぱり伺えないわ」
わたしは立ち上がって、絣のもんぺの膝を手でパンパンと払った。
「また、いつ警報が鳴るかもしれませんから、今日は早くお帰りになった方がよろしくてよ」
つっけんどんな云い方になった。
いきなりのわたしの変わり身に、彼はきょとんとした顔になる。
そんな彼を尻目に、わたしは「では、ごきげんよう」と云い放ち、勝手口を出た。
先刻までの警報のサイレンの代わりに、今度は蝉の声が辺りにこだましていた。
夕飯に使う野菜を採ろうと思い立ち、裏の畑に向かいながら、わたしは込み上げてくるもので、目の前がだんだんぼやけてくるのを感じた。
彼がわたしを通して廣子を見ているのは、明らかだった。