遠い昔からの物語
「明日入隊したら、今度、いつ会えるかわからない。だから、きみを……安藝子を、僕の妻にしてから、戦地に征きたい」
彼の言葉に、わたしは目を伏せた。
「でも、伯父さんたちが帰ってきたら……」
伯父たちは、まだ帰って来ていなかった。
どういうわけか、今日は断続的に警報のサイレンが鳴り響いていた。
いつものようにサイレンの音だけで、東京で経験したようなB29の爆撃音はしなかったが、それでも遅い帰宅は案じられた。
「小父さんは酒が入ってるから、歩いて帰ってくるのは無理だろう。今日は僕の家で泊まると思う」
路面電車はとうに動いていなかった。
「……安藝子」
彼がわたしの頬を両手ですっぽりと包んだ。
「僕の頼みを、聞いてくれるね」
彼が私の目を覗き込むようにして訊いた。