遠い昔からの物語
「上のお兄さんには教えてもらえなかったの」
わたしが不思議に思ってそう訊くと、寬仁は首を振った。
「正信兄貴……信兄は生まれついての堅物だからね。県庁の上司のお嬢さんだった徳子さんと一緒になったけど、たぶん他の女は知らないと思うな」
「あら、寬仁さんは他の女性がお知りになりたいの」
わたしはすかさず彼に問うた。知らず識らず目が険しくなっていた。
「なに云ってるんだ。僕には、安藝子以外は考えられないさ」
寬仁は慌ててそう云った。
それから、わたしを抱き寄せ、くちびるを求めてきた。
「もう、どこまで信じていいのかしら……」
そう云いながらも、寬仁の首の後ろに手を回したわたしは、彼のくちづけに応えていた。
ひとしきり、口の中で、互いの舌と舌を絡め合わせる。