遠い昔からの物語
わたしは寬仁をやさしく抱きしめた。
「非国民ね。入隊を拒否して逃亡するつもりなの。憲兵さんに知られたら、大変よ」
わたしだって、あなたを征かせたくない。
ずっとずっと、傍にいてほしい。
明日の今頃、あなたがいなくなっているなんて、考えられない。
考えただけで、気が違ってしまいそうだ。
「男に生まれてくればよかったわ。そうすれば、寬仁さんと一緒にどんな戦地にも征けてよ」
わたしは茶目っ気を出して、明るく云った。
でも、語尾は震えていた。
「莫迦云え。男相手に、こんなことしたかないよ」
寬仁はわたしの頬に軽く接吻して、屈託なく笑った。
わたしの大好きな、悪戯っ子で腕白坊主の顔だ。