遠い昔からの物語
先刻までわんわん鳴っていたサイレンは、すっかり止んでいた。
いつの間にか、警報解除のサイレンが鳴ったのだろう。今日も被害はほとんどないように思われた。
「どういうわけか、今のところ、ここは空襲の被害がほとんどないからいいけれど、明日からは僕のためだと思って、どんなに怖くても防空壕に入ってくれよ」
寬仁はそればかりが気がかりだ、と云いたげだった。
わたしは肯いた。
そう思えば、なんだか入れそうな気がした。
「だけど、ここは軍都だからおっかなくて狙われないんでしょう。町の人がそう云っているわ」
この地のお城の地下に、陸軍の大本営の大規模な基地があるそうだ。
一応、軍事機密ということになっているらしいが、近隣の女学生たちが電話交換手など徴用で取られているので、みんな知っていた。