遠い昔からの物語
「……ねぇ、この先、戦争はどうなるのかしら」
思い切って、わたしは寬仁に訊ねてみた。
ずっと知りたかったが、憲兵さんの耳に入ったら恐ろしいことになるので、だれにも聞けなかった。
東京では、三月のものすごい空襲後くらいから、ちらほらと「今度の戦争では日本は勝てないんじゃないか」という噂が出ていた。
「帝都や他の大都市があんな状況だからね。戦況は、かなり厳しいだろうと思うよ」
寬仁は声を潜めてそう云い、ため息を吐いた。
「もし、もしもよ……この国が負けるようなことがあったらどうなるの」
わたしは世にも恐ろしいことを口にした。
寬仁はしばらく考えてから、
「……沖縄や台湾、朝鮮のようになるだろう。土地を追われ、言葉も奪われる」
そう答えて肩を竦めた。
「この国が今までにしてきたことを、今度はされる側になる、ということだ」
わたしは恐ろしさで身震いした。
やはり、行けるところまで行かないといけないのかもしれない。
最近、ラジオでさかんに「本土決戦」「一億玉砕」と云っていたのは、こういうことだったのだ。
子どもの頃から聞かされている、この国を救ってくれるという「神風」は、いつ吹いてくれるのだろう。
すると、寬仁は怖がるわたしを抱き寄せ、髪をやさしく撫でた。
「大丈夫だよ。なんとか、喰い止めてくるさ。
……そのために、征くんだから」