遠い昔からの物語

間宮中尉が蒲団に身を収めると、息をするのも(はばか)られるくらい、辺りはしーんと静まりかえった。

外からだろうか、猫の鳴き声が聞こえてきた。

……()()なことじゃねぇ。今の時期に猫は(さか)らんじゃろうに。

耳を澄ましてみた。


外からの声じゃない。
たぶん、(ふすま)の向こうからだ。

そして、猫の鳴き声じゃない。

……女の声じゃわ。

それは、女のすすり泣くような声だった。

……一緒にお風呂へ行った薫子さんかもしれん。なにかあったんじゃろうか。

わたしは寝返りを打って、中尉の方へ向き直った。


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*いなげな=奇妙な・不思議な
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