遠い昔からの物語
改札口の柵から身を乗り出すようにして、ホームの方を見つめる小太りの中年の女がいた。
わたしと目が合うと、一瞬訝しげな顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「お嬢さあーん、こっちじゃけえー」
女は手を振り上げて、大声で叫んだ。
周りの者がわたしを見る。
わたしは恥ずかしさで頬を赤らめながら、女に駆け寄った。
「……佐伯 廣子です」
そう名前を告げると、
「やぁやぁ、よう来んさったねえ。朝から中尉殿、首を長うして待っちょるけぇのう」
と云って、わたしの手から旅行鞄をひょいと取りあげて歩き出した。