遠い昔からの物語
駅を出ると自動車が待っていたので、それに乗り込んだ。
これからいよいよ、婚約者の待つ旅館へ向かうのだ。
女はその旅館の仲居で、わたしを案内するために婚約者が仕向けた者だった。
わたしの婚約者、間宮 義彦は海軍航空隊所属の中尉である。
この町にある、昨年できたばかりの海軍の基地で飛行訓練をしていた。
間宮中尉から、この度三日間の休暇を賜ることになったからわたしを寄こしてほしい、という手紙が突然、父の元に届いた。