遠い昔からの物語

◇第一話◇


朝湯を浴びて部屋へ戻ってきたが、婚約者の佐伯(さえき) 廣子(ひろこ)はまだ戻っていなかった。

風呂の道具をその辺に置く。

仲居が御膳の支度を既に整えてあった。

湯上りなので、一升瓶の酒と(ちまた)では手に入りづらくなった麦酒(ビール)を所望していた。

座蒲団に腰を下ろし、麦酒の瓶の栓を抜いていたら、(ふすま)が勢いよく開いて、おれと同じ浴衣姿の神谷(かみたに) (みのる)が入ってきた。

朝食は四人で喰おうと約束してあった。

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