遠い昔からの物語

「あー、腹が減った」 

神谷はそう云って、おれの対面にどかっと腰を下ろした。

「……間宮(まみや)、貴様のエンゲもまだ風呂か。うちもや。女の風呂は(なご)うて困る」

「エンゲ」とは婚約者のことだ。
英国式の大日本帝国海軍では、英語のengageに(ちな)んでそう呼ぶ。

神谷は、海軍兵学校時代からの腐れ縁で、今は敵の航空母艦などを直接攻撃する、二人乗りの艦上爆撃機の相方だ。

おれが前方で操縦を担当し、奴が後方で機銃を握る。

戦場では一蓮托生の、おれにとって最も気の置けない相棒だ。

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