遠い昔からの物語
洗濯物を干し終えた廣子は、今度はおれが浴衣から麻の白縞に着替えるのにとりかかった。
女学校を出たばかりの、まだまだ子どもだと思っていた廣子が、思ったよりもずっと手際良く、おれの世話を焼けるようなので驚いた。
朝起きてから、小さな身体でおれの周りをくるくると動きまわり、甲斐甲斐しくいっぱしのことをやっている。
これなら、すぐにでも嫁に来れるなと思った。
飯の支度が満足にできるかどうかはまだわからないが、駄目なら女中を雇えばいいだろう。おれのいないときは、話し相手にもなるから一石二鳥だ。
海軍の慣例があるため、正式な届出は大尉に昇進してからだが、とりあえず仮祝言だけでも早急に挙げようと決心した。
いくら婚約しているとは云え、嫁入り前の娘を賜暇のたびに一人で汽車に乗せて呼び出すわけにはいかない。
また、男女の契りを交わしたからには、いつ廣子が子を宿してもおかしくはない。
祝言を挙げれば、基地の近くに家を借りて、廣子をそこに住まわせることもできる。実際、妻帯している上官にそのようにしている者がいると聞く。
今の訓練状況では、おれがその家から基地に通うということはできないが、それでも休暇にしか会えないというよりはずっと多く一緒にいられるだろう。
それに、もう、五年も待ったのだから……