遠い昔からの物語

久しぶりに実家に帰ったときのことだ。

座敷机の上に見合い写真が山のように積み上げられていた。

「……ほう、兄貴の見合い写真か。えらぁ量じゃのう」

兄は地元の県庁に勤めていた。

「なに云うとるんかっ。みなあんたんよっ。兄やんはこの秋に祝言を挙げるんじゃろうがっ。
……あんたぁ、いっこも家に帰って()んけぇっ」

母は、怒りを爆発させた。

「えぇか。こがぁに持ってきてもろうて断るんじゃぁ、間に入っとる仲人さんに申し訳もできゃぁせんけぇ、あんたぁ、こん中から決めんさいね」

母は怒るし、久々に家に帰ってきてもすることがないので、とりあえず見てみることにした。

そして見つけたのが、廣子とその姉さんが写る、あの写真だった。

五年も前のことなのに、廣子の写真を一目見たとたん、

……あんときの、あの女の子じゃ。

と、わかった。

頬はややほっそりし、もう真ん丸な顔ではなかったが、面立(おもだ)ちはさほど変わっていなかった。

なにより、おれを魅きつけた、あの強い眼差(まなざ)しがそっくりそのままだった。

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