遠い昔からの物語

中食(ちゅうじき)をとった神谷の部屋から戻ると、蒲団が一組敷かれていた。中食のあとは午睡をとるため、仲居に用意させていた。

おれは廣子の肩を抱き寄せ、

「……昼前の続きをやるけぇのう」

と、耳元でささやいた。

廣子がびくっとしておれを見上げた。

「……ほいじゃけぇ、また……だれか、入って来るかも……しれんけぇ……」

涙声になっていた。

神谷の「あの」来訪には、よっぽど気が動転したのだろう。

「奴はさっき、旅館を出たばかりじゃけぇ、しばらくは帰って()んじゃろう。それに、あんな奴が見ても気にせんでえぇぞ」

廣子の頬を優しく撫でながら云った。

おれは神谷を心底憎んだ。同じ機でなければ、敵機よりも先に撃ち落としてやるところだ。

「そんとなこと云うても……」

おまえは目を伏せた。

「男が可愛がっちゃる云うとるんじゃ。
……つべこべ云うなや」

まだなにか云いたそうな廣子のくちびるを、おれは唇で強引に塞いだ。

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