遠い昔からの物語

廣子は今、女の悦びを知ったのだ。

……教えたんはこのわしじゃ。

この上もなく廣子が愛おしくなって、おれは廣子を引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。

「……廣子」

耳元で、その名を甘く、呼んだ。


「……骨の髄まで……惚れとるけぇのう……」

おれがそうささやくと、
廣子の目から、ひとすじ、涙がこぼれた。

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