遠い昔からの物語

◇最終話◇

〽︎ わ…れは…う…みの…こ、し…らな…み…の……

微睡(まどろ)みの中で、廣子の透き通った美しい歌声が聴こえてきた。

〽︎ さ…わぐ…い…そべ…の、ま…つば…らに……

おれは目を開けた。

「……起きたん」

廣子がふっくらと微笑んだ。

既にきっちりと服を身につけ、おれが眠っている蒲団のそばに座って、すっかり乾いた洗濯物の中の軍足を繕っていた。

踵(かかと)の部分の補強がない軍足は穴が開きやすいため、薄くなった生地のところに当て布をしていた。

「義彦さんが無事にお務めを果たせますように、ってお祈りしもって繕っとるんよ。
……うちが知っとる海の歌、歌いもって」

いじらしいその姿にぐっときたおれは、身を起こして、廣子を引き寄せようとした。

「うち、針持っとるけぇ、危なぁんよ……」

廣子は慌てて針と軍足を脇へ置き、それから、裸のままのおれのために下着を持って来ようとした。

おれはそれを制して、廣子を抱きしめた。

そして、くちびるを奪った。