遠い昔からの物語
なんとなく気まずい空気が流れ、しばらく二人とも黙りこくっていた。
このままでは埒が開かないので、おれは廣子の顔を覗き込んだ。
すると、いつの間にかおまえの目はいっぱいの涙を湛えていた。
「……うち、ほんまは……家に去にとうなぁで……」
振り搾るような声で云い、その目から涙がぽろぽろぽろっと溢れ落ちた。
そして、顔を両手で覆い、まるで幼子のように泣きじゃくった。
おれは苦笑した。やはりまだまだ子どもである。
軍人の妻になろうという女が、こんなに泣いてばかりでは困ったものだ。
……ちいっとばかり、甘やかし過ぎたかもしれんのう。今のうちに、心構えを説いておかんと。
おれは心を鬼にして一喝してやろう、と思ったが、つい廣子をやさしく抱き寄せてしまった。
廣子はおれの腕の中で、さらに激しく声を上げて泣いた。
……甘えさすんは今夜限り、じゃけぇのう。