遠い昔からの物語
今の現状から鑑みると、アメリカとの関係は好転の兆しは見えず、益々悪化の一途を辿ると思われる。
それに備えて、賜暇が終われば再開される飛行訓練は、さらに苛烈さを極めるだろう。
何度でも云う。
おれはいつでも廣子のために死ねる。
だが、おれがいないともう生きていけそうにないこんな廣子を、だれが遺して逝けるものか。
「……君がため、惜しからざりし命さへ、長くもがなと思ひけるかな……」
〈きみのためなら惜しくはない命なのに(想いを遂げた今となっては)長く生きられるものならば生きたい、と思ってしまうのだ〉
おれは昔の歌人が詠んだその歌を呟いた。
そして、廣子をさらに強く抱きしめた。
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「遠い昔からの物語」
第二部 「さくら、さくら」〈 完 〉