意地悪な彼ととろ甘オフィス
「はい。山下さんは?」
「俺もいいかな。あんま遅くまで騒ぐと次の日がツラい年になってきたから。いくら明日土曜だからってはしゃげないかな」
苦笑いを浮かべる山下さんは、私よりも二歳年上の27歳。まだ、そこまでの年齢ではない。
「山下さん、充分元気そうですよ。そのへんの大学生に混じっても違和感なさそう」
話しているうちに、須永先輩が二次会参加者を締め切る。
成瀬さんは女性に囲まれているし二次会もこのまま参加するんだろう。
飲み会の最中も今も、成瀬さんの腕にぐいぐい巨乳を押し付けているのは同じ課の古館さんだ。
年齢も入社年数も私よりひとつ下で、須永先輩いわく、ロールキャベツ系女子らしい。
そんな古館さんに愛想を振りまいている成瀬さんからすっと視線を逸らす。
成瀬さんの営業用の笑顔は苦手だ。
「日向さん、送るよ。家、どこ?」
山下さんに言われ、首を振る。
私は実家暮らしだし、山下さんも下心からではなく善意からだろうけれど、家まで送ってもらうのは抵抗がある。
「いえ。大丈夫です」
「でも、時間も時間だし、そのまま帰すのも心配だから」
ハッキリと言い切られ困る。
送ってもらうことに抵抗はあるけど……ここまで言ってくれているのに断るのは気が引けてしまう。
だから、途中までお願いしようと思い「じゃあ――」と口を開いたのと、私の隣に誰かが立ったのは同時だった。
顔を上げるとそこには成瀬さんが立っていて、山下さんに笑いかけていた。
その向こうでは、古館さんが不貞腐れたような顔でこちらをチラチラと見ていて……それから諦めたようにため息をつき、歩き出す。
カラオケ組はもう移動を始めているから、それを追ったようだった。
成瀬さんは行かなくていいんだろうか……。