意地悪な彼ととろ甘オフィス
「あれ。成瀬も二次会行かないのか?」
「はい。ちょっと気が向かなかったんで適当に言って断っちゃいました」
「あー、気持ちわかるわー。ぶっちゃけ面倒なときってあるよな」
だから古館さんはあんなに顔をしかめていたのか……と納得していると、成瀬さんが言う。
「まぁ、そういうことなんで俺がこの人送りますよ」
「え、でも俺が……」
「たまたま家が隣同士なんで。どうせ帰り道なんですよ。だから」
チラとも私を見ずに会話を進める成瀬さんの横顔を見ながら、〝またか〟と思う。
今までも、大学とかの飲み会でたまに成瀬さんと同じ会に参加することはあった。
そして、誰かが私を送ってくれるという話がまとまりそうになったところで、必ず成瀬さんはこうして会話に入り込んでくる。
最初はどうしてだろうと疑問だったけれど、こっそり期待したりもしたけれど……何度目かのとき、理由がわかった。
『なに。俺が邪魔したから怒ってんの? 言っとくけど、あいつに日向サンは全然似合ってねぇよ』
自分こそ怒った顔と声で聞いてきた成瀬さんの言葉に、ああそうかと思った。
成瀬さんは私の恋路を邪魔するっていう嫌がらせをしてるだけなんだって。
中学のあの時以来、成瀬さんはなにかと意地の悪いことを言ったりしてきたりするようになっていたから、これもそうかと判断した。
私が彼と別れたってどこかから聞いたときだって『どうせたいして想われてなかったんだろ』って嫌味を言ってきていたし。
そうやって、私を傷つけることばかりして、私の心のなかを勝手にズカズカ踏み荒らして――。
「え、隣同士?」
山下さんの驚いた声にハッとし、ついつい噛みしめていた下唇に気づく。
いけない。眉間にシワまで寄ってた。
「ってことは幼なじみなんじゃん。……あれ? その割に他人行儀だったような……」
不可解そうな山下さんに、成瀬さんが笑う。
「まぁ、別に仲がよかったわけでもないですし。ある程度年いった幼なじみなんてそんなもんでしょ」
「へぇ。そんなもんなのか。……まぁ、たしかに男女だとよそよそしくもなるかもな。同性なら話も別だけど」
「そういうことです。じゃあ俺たち帰るんで。お疲れ様でした」
話が終わったのを見て、私も「お疲れ様でした」と頭を下げると、山下さんは笑顔で「お疲れ」と手を振った。