意地悪な彼ととろ甘オフィス
駅までも、電車の中でも成瀬さんはずっと無言だった。
まぁいつものことだしと気にしないようにして、電車に揺られる。
ドアガラスには、夜景に混じって私のうしろに立つ成瀬さんの顔が映っていた。
立っている乗客はパラパラとしかいない。そんななかで私と成瀬さんの距離は異常に近い気がした。
私が嫌いならもっと離れて乗ればいいのに……とも思うけれど、口には出さなかった。どうせ機嫌の悪い声が返ってくるだけなのがわかっているから。
電車が揺れると、たまに成瀬さんの身体がぶつかる。
それにいちいちドキッとしてしまう心臓に気付かれたくなくて、成瀬さんから隠れるようにぐっと俯いた。
きっと、この距離感にドキドキしてしまっているのは私だけで、成瀬さんからしたらなんでもないんだろうっていうのがわかって、それが悔しい。
中三の頃、私が告白したことなんてすっかり忘れてしまっている成瀬さんが……私だけがその恋心を今も大事に抱えていることが……悲しくて、悔しくて仕方なかった。
最寄駅から家までは徒歩十五分ほどかかる。
足のリーチが違うのに、ちっとも離れない成瀬さんの背中は、私と2メートルの距離感をずっと保っていた。
暗くなった空には細かい星が散らばり、三日月が浮かんでいる。
視線をゆっくりと下げると、等間隔で立っている街灯と、その明かりに照らされる道路が映る。
車がすれ違えるくらいの幅の道路に人通りはなく、成瀬さんの背中をぼんやりと眺めながら歩いていると「山下さんと、楽しそうだったけど」とぼそりと言われた。
成瀬さんが背中を向けたまま続ける。