意地悪な彼ととろ甘オフィス
「ああいうヤツがタイプ?」
「そういうわけじゃないけど……いい人だね。明るくて、親しみやすくて。私、結構最初ひとみしりしちゃうけど、山下さんは話しやすかった」
雰囲気が陽気だからか、接しやすかった。
それを言うと、成瀬さんは「そんなん知ってるけど」とこぼす。
「ひとみしり。頼まれごとされると断れない。すぐ我慢する。……昔からそうじゃん。いっつも掃除当番とかやらされてたし」
続けられた言葉に、一気に胸が締め付けられた。
学生時代、頼まれごとをすることが多かった。きっと、私が断れないからだろう。
掃除でも、プリント作りでもいつでも借り出されてしまって、そんな私を成瀬さんは何度も手伝ってくれた。もっともそれは、成瀬さんが意地悪になる前までだけど。
それを……覚えてくれてたのか。
たかがこんなことでどうかしているとは思う。
でも、成瀬さんがそれを覚えてくれていたんだってだけで心の柔らかい部分がギュッと握られたように嬉しくなってしまった。
家まであと十メートルほど。
ひとり、うつむきながら歩く私に、成瀬さんが言う。
「山下さんが気に入ったなら、また会う機会作ってあげようか」
「え……」
「まぁ、嘘だけど」
すぐに訂正された言葉にはキョトンとしてしまい……それから、じわじわと広がる苛立ちに眉を寄せた。
別に、山下さんとまた話したいと期待したからじゃない。成瀬さんの態度に不愉快になったからだ。
「……なに。家入らないの?」
家の前についたっていうのに、立ち止まった私を不思議に思った様子の成瀬さんが聞く。
その顔をじっと見つめて口を開いた。