意地悪な彼ととろ甘オフィス
響哉くんのことを好きだと実感したのは、中三の秋。
響哉くんから冷たい態度をとられ始めて、一年近くが経った頃だった。
今までいた距離に響哉くんがいない。
去年みたいに笑いかけてもくれない。名前だって呼んでくれない。
それを実感するたびに、じわじわと心の中から感情が溢れだし、ああそうかって気付いた。
――私の、遅い初恋だった。
でも、考えてみれば当たり前だったのかもしれない。
いつだって傍に響哉くんがいたし、物心ついた頃には響哉くん以外の男の子なんて私の周りにはいなかった。
幼稚園のバスの隣も、遠足で手を繋ぐのも、バレンタインにチョコを渡すのも、登下校も。
気付いたら、全部が響哉くんで埋まっていた。
当たり前にそれができなくなってから、ようやく自分の恋心を自覚して……そして、気持ちを伝えたいと思った。
だってじっとしていられなかった。
『俺も彼女でも作るかな』
友達とそんなふうに笑う響哉くんを見たら、行動に移ってしまっていた。
響哉くんの隣に誰か決まったひとがいるところを見たくないと思って……恋愛の切なさを知った。
中三のバレンタイン。
朝は色めき立っていた教室は、お昼休みになると告白に成功した子と失敗した子で、二色にわかれていた。
そんななか聞こえてきた噂によると、響哉くんは誰からの呼び出しにも応えないしチョコも受け取らないという話だった。
『手作りって苦手だから。ごめんね』
『お返し面倒だから、誰からも受け取らないって決めてんの。ごめん』
断られ方は色々だけど、受け取ってもらえたという子は誰ひとりとしていなかった。
戦う前に負けてしまったような結果は、もちろんショックだったけれど、どこかホッとした自分もいた。
だって、誰のチョコも受け取らないなら特定の彼女も作らないってことだ。
誰の呼び出しにも応えないなら、私が呼び出したところでどうせ来てはくれないだろうと九割方諦めて待っていた教室のドアを響哉くんが開けたときには驚いた。
手作りのチョコを持って教室で待っている私を見て、響哉くんはすぐに目を逸らした。