意地悪な彼ととろ甘オフィス
放課後の校内。
他のクラスはまだ生徒が残っているのか、遠くからわずかな話し声が聞こえてくる。
『……なに?』
ぼそりと問われ、ハッとする。
来てくれないかもしれないって思っていたから、響哉くんの登場に驚いてしまっていた。
チョコを渡そうとして、もうひとつ手に持っている手提げ袋を思い出す。
英語を担当してくれているイギリス人の先生がお昼休みにクラスに来て、全員にチョコを配った。でも、響哉くんにだけはタイミングが悪くて渡せなかったから、渡すよう頼まれたものだった。
まずはそれを……と思い、差しだす。
『あの、これ……』
無言で受け取った響哉くんに続ける。
これから自分のチョコを渡すんだと思うと、心臓が騒がしくて、声が震えていた。
『カミラ先生から頼まれて。クラスの男子全員に渡したけど、響哉くんにだけは渡せなかったからって。……でね、こっちは、その、私から――』
『いらない』
顔を上げると、険しい表情をした響哉くんが私を見ていた。
チョコを突き返されて……無意識に受け取りながら『え?』と返すと、『だから、いらねぇって言ってんだろ』と冷たく言われる。
意味がわからなかった。
私からのチョコだけじゃなくて、カミラ先生のチョコでさえ私が仲介したって理由でいらないって、そういうこと……?
そんなに私のことが嫌い……?
私のチョコは渡すこともできずに手にぶらさがったままで、まるで受け取ってもらえない私の恋心みたいだった。
手元に戻ってきたカミラ先生のチョコを見つめながら『なん、で……?』ともれた声に、響哉くんは眉を寄せ……そらから、ツラそうな笑みを浮かべた。
『なんでかなんて、自分で考えろよ。……最悪』
忘れもしない、中学三年生の二月十四日。
私の初恋が散った瞬間だった。