意地悪な彼ととろ甘オフィス
私が勤めている会社は、自動車関連製品の製造を主としている。
そのなかで私が担当するのは総務の仕事で、早い話が雑務だ。
他にも、営業課や製造課、庶務課といろいろな部署があるこの支店に、半月ほど前新しい機械が入った。
それは本社ではもう半年前から使っているものらしく、その機械の説明、取り扱い方をレクチャーするために成瀬さんが来ているというわけだった。
だとしても長すぎる半年という期間は、成瀬さんの営業力に期待して……という噂を聞いた。
整いすぎていると言っても過言でないほどの顔立ちと、しっかりと筋肉のついた180センチ近くある大きな身体。にこにこと、惜しみなく振りまく愛想。
それらは営業先だけでなく、社内でも人気大爆発状態で、女性社員は成瀬さんの恋人の座をかけ毎日水面下で戦いを繰り広げているらしい。
つまり、機械のレクチャーと営業活動が、この半年で成瀬さんに課された仕事だ。
まだ三年目ということを考えると、ホープとでもいうんだろうか。
そんな成瀬さんの飲み会出席率は低くない。でも、それは男同士の場合に限られるらしく、女性社員からの誘いへの反応はいまいちだという話。
申しわけなさそうな笑みと、甘く響く低い声で〝本当にごめんね〟と断られてしまえば、女性社員も引き下がるしかないってそんな噂ばかりだった。
だから〝どうして、仕事でほとんど絡むことのない総務課女性社員との飲み会なんて参加する気になったんだろう〟という須永先輩の疑問はもっともだ。
腕組みをし、首を傾げていた須永先輩は「まぁいいか」と考えることをやめ、私を見る。
「とにかく、日向。そういうことだから。成瀬さんは適当に声かけて他に三人連れてくるって話だし、こっちも四人で挑むわよ」
強制参加みたいな空気を出す須永先輩に、わざと眉を下げて見せた。
「そうなんですか……。なんで今日に限って仕事がこんなにあるんだろう。身体がふたつにわけられたら絶対に参加したのに……残念です」
ガッカリしているような表情を作って続ける。
「私のことは気にせず、他に誰か誘って楽しんできてください」