意地悪な彼ととろ甘オフィス
「あの子、うちの店に来ては潰れるほど飲んで悪酔いするのよ。その理由がどうやらあなたにあるみたいだから、ちょっとね」
「お店……?」と聞くと「ああ、私、バーを経営してるの」と教えられる。
「今日だって落ち込んだ顔して店にきたと思ったら、強いお酒飲み始めて……。〝俺のほうがいいに決まってる〟だの〝あいつもう絶対に会わせない〟だのうるさくてね。心当たりない?」
「……いえ」と首を振る。
今日落ち込んでいた理由は私にはわからないし、それに……。
「たぶん、寧々さんの勘違いだと思いますよ。成瀬さんの頭のなかには、私のことなんて少しもないと思いますし」
いつだって、不機嫌で面倒くさそうな顔しか見せてくれない。
つまり私をうっとうしいとしか思っていないってことだ。
そう再確認して痛みだす胸を押さえていると「どうしてそう思うの?」と聞かれるから、思わず笑ってしまう。
どうしてって。
そんなの簡単だ。
「私、とっくの昔にフラれてるんです」
寧々さんは眉間にシワを寄せたあと「まさか、〝響哉に〟なんて言わないわよね?」と聞く。
「成瀬響哉に、です」
絶句した寧々さんに続けた。
「中三のバレンタインにチョコを渡そうとしたら、断られて、〝最悪〟って……幼なじみから告白なんてありえないってことだったんだと思います。そもそも、中二の終わり頃からまともに話してもくれなくなったし。
……幼なじみって関係が、成瀬さんはずっと嫌だったのかもしれません」
それなのに私が調子に乗ってずっと傍にいたから。
目を伏せると、寧々さんは「うーん……」と長い長い唸り声をあげたあと、脱力し大きなため息を落とした。