意地悪な彼ととろ甘オフィス


「だから、誘ってないの。なのにどこから聞きつけたか知らないけど、急に来て当たり前のように成瀬さんの隣に座って……挙句、二次会の会費、男性に払わせようとしてたしね。〝帰る電車代なくなっちゃう〟とか言って」

「ええ……ひどいですね」

パートさん用の希望出勤日を記入する用紙がもう切れていたから、それを新たに印刷する。
エクセルの画面を開き、とりあえずと三十枚印刷すると、すぐに後ろに置いてあるプリンタがガタガタと音を立て始めた。

軽快な音を立てて印刷されていく用紙。
キャスター付きの椅子をくるっと反転させて終わるのを待ち構えていると、須永先輩も隣に並ぶ。

「まぁ、そんなわけだから成瀬さんが日向連れて帰って内心よっしゃ!とは思ってたのよね。で、どうなったの?」

よほど気になるのか、全然ひこうとしない先輩に呆れ笑いをこぼした。

「どうもなりませんよ。ただ、黙ってもくもくと帰っただけです」
「はぁ? あの美形にお持ち帰りされながら?! 信じられない! ……え、なんで? ちょっと真剣に疑問なんだけど」

まだ誰も出社していないとはいえ、ちょっと慌てるくらいの大声を出す先輩に「ちょっと、もう少し静かに」と注意してから話す。

「なんでもなにも、幼なじみですから。そんなことにはならないんですよ」
「え……幼なじみ? え、なに、家が隣同士とかそういう……ロマンチックな感じ?」
「ロマン……は、ちょっとわかりませんけど。そんな感じです」

ロマンは私の方にしかなかったとは言えずにごまかす。

カシャンカシャンと印刷された用紙が次々に出てくる。
そろそろ終わるだろうかと思い眺めていると、須永先輩が「そうなんだ」とようやく納得した声を出す。



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