意地悪な彼ととろ甘オフィス


うちの課に女性社員は六人。成瀬さんがくるって聞けばみんな行きたがるに決まってる。

「ほんと、残念だな」

肩を落としながらも笑顔で言い、パソコンに向かい直した。

いくら須永先輩が頑張ってとりつけてきた約束だとしても、参加するわけにはいかない。

美形で、背が高くていい身体していて、愛想もいい……と噂の成瀬響哉が来る以上、絶対に行きたくない。

成瀬響哉は、なにを隠そう、隣に住んでいる幼なじみで……昔、私の告白をひどい言葉で切り捨てた男だ。


『なんでかなんて、自分で考えろよ。……最悪』

二月の放課後の教室。
外気に負けないくらいに冷たい響哉くんの声は、今も思い出すたびに私の心に傷をつけるのだった。


***


――もっと違う理由で断ればよかった。

合コン会場の居酒屋で後悔しても遅いことはわかっていても、そう思わずにはいられなかった。ちなみに身体は分裂していない。

『私のことは気にせず、他に誰か誘って楽しんできてください』と断ったあと、須永先輩は『水臭いこと言わないの! 手伝ってあげるわよ』と笑った。

そして、気合いの表れなのか腕まくりまでした須永先輩によって、残っていたデータ入力や、他部署から頼まれた消耗品の注文書作成はあっという間に片付いてしまい……。

『私が本気出せばこんなもんよ。ただし、緊急時しか発動しないからいつも頼られても困るけど!』

ニィッと口の端を上げた須永先輩に『……ほんと、ありがとうございました』と棒読みで告げることになったのだった。

そして、半ば引きずられるようにして連れてこられた居酒屋の個室には、すでに成瀬さんたちの姿があり、そこから私にとって地獄のような時間がスタートした。

男女交互に座るような配置に、やっぱりこれは親睦会というより合コンなんだなと確信する。
王様ゲームが始まらないことを願う。

ちらりと視線を移していくと、離れた場所に座る須永先輩と目が合い、グッと親指を上げられる。

その口元を見れば、どうやら〝かわいい〟と言いたいらしかった。


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