意地悪な彼ととろ甘オフィス
こんなふうに成瀬さんにおんぶされるのはいつぶりだろう。
大学では、本当にたまに肩を借りたことはあったかもしれないけれど、おんぶってなると高校生が最後かもしれない。
あの頃よりもまた少し逞しくなった背中に揺られる。
私はどちらかと言えば小柄だけど、それにしたってずっとおぶっているのは大変だろう。
そう思ってもう大丈夫だと言っても、成瀬さんは「うるさい」ととりあってくれなかった。
いつもは突き放すような冷たい言葉や意地悪な態度をとるのに、私が本当に困っているときにはこうして優しくしてくれる、成瀬さんの気持ちがわからない。
ただ優しいからなんだろうって理由では収まらな気がするのは、私がおかしな期待を捨てられずにいるからなのか。
寧々さんが教えてくれたことも、あの日から頭を離れない。
そのせいで心臓が速度を速めるから、それが背中越しに伝わってしまわないか不安になる。
成瀬さんの靴音がコツコツと響く、静かな夜道。
電車がガタゴトと揺れるのはあんなに気持ちが悪かったのに、成瀬さんの歩調はとても静かだからか心地よかった。
そのせいか、幾分気分が楽になる。
「……今日の。ああいう態度は敵を作っちゃうよ」
古館さんへの態度は、あまり褒められたものじゃない。
ひどいと噂を立てられても仕方なく思えて言うと、成瀬さんは少しだけ振り向いたあと、再び前を向く。
「別にかまわないけど。俺は誰かさんみたいにみんなにいい顔したいわけじゃないし」
「……だとしても。私のせいで成瀬さんが立場悪くしたりしたら嫌だから」
「なに勘違いしてんだか知らないけど。俺は日向サンのためにしたわけじゃない。ただ、ああいう女がイラッときただけ」