意地悪な彼ととろ甘オフィス


私のためじゃないと言われてしまえば、私が注意する必要もなくなってしまう。

だからため息を落としながらも黙ると「どうせ半年だし、成績さえ残しておけばこの支店にどれだけ敵作ったって問題ない」と声が追ってきた。

半年という単語に、そういえばそんな話だったことを思い出す。
仕事がとても優秀だからって理由だったっけと。

「そっか……。そうだね。成瀬さんは仕事しっかりしてるしいらない心配だった」

須永先輩が言っていた。

『成瀬さん、今まで何度足を運んでも契約とれなかった会社を口説き落としたって。さすが本部が派遣するだけあるわよねぇ』

それは、社内のあちこちで噂されていたし、事実なんだろう。

仕事を終えて家についても、成瀬さんの部屋の電気がついていることはない。つまり私よりも残業しているってことだ。

私への態度は意地悪でも、成瀬さんが仕事を大事にしているのはたしかだった。
だから言うと、成瀬さんはピタッと黙る。

おかしな雰囲気を感じ見ると、耳のあたりがわずかに赤らんでいるようで……どうしたんだろうと声をかけようとしたとき「家、電気ついてないけど」と言われる。

顔を上げればもう家の前だった。

「おばさんは?」
「ああ、おばあちゃんの具合があんまりだから、何日か前からそっちに泊まってるの」

隣の県でひとり暮らししているおばあちゃんが風邪をこじらせてしまい、肺炎が心配だからとお母さんが向かったのは三日前。

昨日かかってきた電話では、まだ咳がひどくて心配だからあと一週間くらいはおばあちゃんのところにいるって話だった。もちろん、私も賛成した。

おんぶから下ろしてもらってバッグのなかから鍵を取り出す。

「じゃあ、夕飯は?」と聞いてくる成瀬さんに「冷凍のパスタとかあるし、ひとりで適当にするよ」と答えると、深いため息をつかれてしまった。


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