意地悪な彼ととろ甘オフィス
「別になにを食べようが私の勝手……」
「とりあえず、家あがったら一時間くらい休んでていいよ。夕飯ができたら呼ぶから」
鍵を開けながら「夕飯ができたら……?」と首を傾げると「俺が作る」と、即答される。
ありえない言葉に一瞬声を失ってから、ふるふると首を振る。
「え、いいよ。成瀬さんは家帰ればご飯あるでしょ。私は別に、体調もこんなで食欲もないし適当で大丈夫……」
「うるせぇな」
私を引きずり込むように中に入った成瀬さんが、内側から鍵をかける。
それから、迷惑そうな眼差しを向けられた。
「作るって言ったの、聞こえなかった? いうこと聞けよ」
普段の口調に混ざる、荒い言葉。ピリッと緊張の走る空気に肩がすくむ。
たまに出る成瀬さんの厳しい口調になにも言えずにいると、成瀬さんは「だから……」とバツが悪そうに後ろ頭をかいた。
「そんな顔色でツラそうにしてんのなんか、見てたくないんだよ」
ぼそりと続けられた声は、本当に心配してくれているように感じ……「ありがとう」とお礼を言うと、「……ん」とまだわずかに不機嫌の混ざる返事をされた。
成瀬さんが作ってくれたのは、ドリア。
冷凍のシーフードがあったから、それを使ったんだろう。ホワイトソースの味が私好みで、口に入れた途端、「おいしい」とつい呟いてしまうほどだった。
リビングのテレビだけがわぁわぁ騒がしいなか、成瀬さんは「そ」とそっけない返事をしただけだった。
私の向かいに座りながらも目は合わない。頬杖をついた成瀬さんの視線はテレビに向いたままだから。
同じ空間にいても、視線がぶつからない。
会話だって短い返事で切られてしまう。
昔とはあまりに違う今に……つい、昔みたいにはもう戻れないのかなと悲しくなる。