意地悪な彼ととろ甘オフィス
「あらー、いらっしゃい。ここ空いてるわよ」
二十時を過ぎた〝Nene〟の店内には、五、六人ほどのお客さんの姿があった。
店内の照明は絞られていて薄暗い。テーブル席が五席と、カウンター席が四席。
間接照明を使ったオシャレで高級感漂う雰囲気に、入ってすぐに足を止めてしまった私に気付いた寧々さんが、手招きしてくれる。
寧々さんの笑顔にホッと胸を撫で下ろしながら、すすめられたカウンター席に座る。
分不相応に思えておどおどとしていると、くすりと笑った寧々さんにカクテルを差し出される。
「スクリュードライバー。まぁ、少し苦いオレンジジュースってとこね」
寧々さんの説明通り、グラス自体も、普段ファミレスでオレンジジュースを頼んだときに出てくるようなものだった。
一応、カクテルだし……とおそるおそる口をつけてみると、あまりアルコールの味は感じなくて飲みやすい。
せっかく出してもらって飲めないのは申し訳ないから、飲みきれそうな味でよかった。
「で? あれから一週間ちょっと……ってところかしら。なにか進展は?」
カウンターの向こうから、身体を乗り出して聞いてくる寧々さんに、グラスをいじりながら口を尖らせる。
寧々さんは、私が成瀬さんのことで悩んでいるとわかっているようだった。
「進展もなにも……成瀬さんは相変わらず、意地悪なこと言ってきたと思ったら急に優しくしてきたりで、意図がわからないです」
「……え。あの子まだそんなことしてるの?」
寧々さんはよほど驚いたのか、いつもより低いキーで言う。
その指先では、新しいカクテルを作っている。どうやら自分で飲む用みたいだった。