意地悪な彼ととろ甘オフィス
「〝まだ〟っていうか、もうずっとです。中二の途中からずっと。基本、冷たくして気が向いたときだけ優しくして……でも、すぐ突き放す。その繰り返し」
グラスがかいている汗を、指先で拭う。
「まぁ、響哉もまだまだ子どもなのよ。それにしたってって感じだけど……こじらせちゃってるぶん、素直になりにくいんでしょうね」
できあがったカクテルをごくりと飲んでから、寧々さんが聞く。
「で? その間、あなたはなにもしなかったの? 振られたら、もう近づくのが怖くなっちゃった?」
厳しいところをついてくる寧々さんに、私もカクテルを口に運ぶ。
苦みのあるオレンジジュースをゴクゴクと飲んでから口を開いた。
「だって……だって、怖いですよ」
空になったグラスをギュッと握る。
そうだ。私は怖かったんだ。……嫌われるのが。
好きになってくれなくていい。
でも、せめて、嫌われたくはない。
……好きだから。
「私がまた好きだとか言いださないで、自分の気持ちを上手に隠せたら……そしたら、いつか昔みたいに仲良くなれるかなって……そんな期待もしてたりして。ほんと、往生際が悪いんですけど」
話を聞きながら、寧々さんが新しいカクテルを入れてくれる。
お礼を言って口にすると、口当たりはいいけれど喉が焼けたみたいに熱くなった。
そういえば、このカクテルの度数っていくつだろうという疑問を、どんどん出てくる言葉が打ち消していく。
「ああ……そっか。成瀬さんは、私の気持ちに気付いたときから冷たくなったのかもしれません。私が自覚するより前から、私の態度から気持ちが溢れてて、それに気付いたからそっけなくなったのかも」
だとしたら、納得がいく。
突然意地悪になったきっかけがわからなくて、戸惑っていたけれど……ああ、そうか。
「きっと、中二の頃から今までずっと、私が成瀬さんを好きだって伝わっちゃってるから意地悪なんですね……。今までの冷たい態度全部が、私の気持ちに応えられないっていう、そういう意味で……」
「それはどうかしら。ひとりで決めつけちゃうのはよくないんじゃない? 響哉の気持ちも聞いてみないと」
寧々さんになだめられて、「でも……」と眉を寄せる。
自分のことなのに、どこか客観的に、まるでこどもが駄々こねているみたいだと思った。
なんだか頭のなかがふわふわする。