意地悪な彼ととろ甘オフィス
「響哉には響哉なりの葛藤だとかそういうものがあったのかもしれないわよ。あなたがショックを受けたのと同じように、響哉もどこかでショックを受けていたのかもしれない。そのへんのところを、もっと話し合ったほうがいいと思うの」
「だって、響哉くんはもう〝明日香〟って呼んでくれない……」
「うん。ショックだったのね」
「それに、だって響哉くんは――」
「――響哉くんは、ひどい男です。私の気持ちに応えられないのは仕方ないにしても、それを最悪って……決死の思いでした告白を最悪って! ありえないっ!」
ダン!と叩いたつもりなのに、全然力が入らず、カウンターは音を立てることもなかった。
泣くつもりなんてないのに、目には薄い膜が張っていた。
そのせいで揺れる視界には、オレンジ色のオシャレな照明がゆらゆらしていた。
「あれ以来、話しかけたってそっけない返事しかしないし、意地悪な態度とるし……最悪なのはあっちなんです。私に振り向いてなんてくれないのに気まぐれに優しく手を差し出してきて、なのに私が期待したらすぐ手を引っ込めて……おかげで私、そのたび転んで傷だらけなんです。もう、こんな身体じゃお嫁にいけないってくらいに傷ばっかり……!」
頭がやたらと重たく感じて、カウンターに突っ伏す。
「あらあら、大丈夫?」と寧々さんが声をかける。
同時に、頬に触れられた。
これも寧々さんだろう。
冷たい手が気持ちよくて、それを掴んで頬ずりする。
やっぱり、身体は男の人だけあってゴツゴツしている手は、どこか響哉くんに似ている気がした。
響哉くんに……。響哉くん……。
「ひどい男なんです。本当に……。なのに……どうして、まだ好きだとか思っちゃうんでしょうか……。こんな傷だらけになっても、私、まだ響哉くんが好きなんです。好きで……だから、苦しい。ほんと、あのイケメン、爆発すればいい……」
アルコールのせいでストッパーが壊れているみたいだった。
気持ちが駄々漏れ状態で、止めようとも止めたいとも思えなかった。
「――ちょっと。このひと、なんでこんな可愛くなってんの?」