意地悪な彼ととろ甘オフィス


上からなにやら声がする。
響哉くんの声に似てるなって思って見上げたら本当に響哉くんで……でも、びっくりしたとかそういう感情はなかった。

ただ、響哉くんだなってだけで。

「強めのカクテル二杯飲ませただけなんだけど……泣き上戸なのかしらね。面白いと思って見てたんだけど、気分が悪くなったりはしてなさそうだから平気よ」

寧々さんの声だ。
響哉くんに説明しているらしい。

寧々さんがクスクスと笑っている。楽しそうだ。

「ふぅん」と答えた響哉くんをじっと見上げていると目が合う。

重なった視線がうれしくてふにゃりと笑うと、困ったような顔をされた。

……あれ。響哉くん、なんだか顔が赤いかもしれない。

「……あのさ、手を、その……離してほしいわけじゃなけど、その、さ……」

動揺した声で言われ首を傾げたくなる。
できないけど。つっぷしてるから。

「手?」と聞くと、「そう……これ」と頬をすりっと撫でられる。

「……あれ?」

寧々さんの手だと思ってたのに、響哉くんのだったらしい。

私が離すと、ゆっくりと離れていってしまった手が寂しくて追う。
伸ばした手で響哉くんの服を掴んで見上げた。

いやだ。離れて行かないで――。

咄嗟に頭を持ち上げたせいで、なかみが揺れる。視界も揺れた。

「私の、チョコ……」

口がふにゃふにゃして上手く回らない。
じれったい思いで言うと、響哉くんは腰を折って「え? なに?」と聞いてきた。

だから「私のチョコ」ともう一度告げる。

「うん? 明日香のチョコ?」

〝明日香〟って呼んでくれたことにも気づかず続けた。

「どうしたら、私のチョコ受け取ってもらえる……?」
「チョコ……?」

不思議そうな声と顔は、まるであの告白なんてなかったみたいで、急に悲しさが襲った。

私にとっては決して忘れられないことなのに、響哉くんにとってはどうでもよかったことみたいで……。


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