意地悪な彼ととろ甘オフィス
「だって、あのチョコは先生からって言われて……」
「先生?」
「英語担当のカミラ先生。そんなこと言われたら頭にも来るだろ。俺は明日香に呼び出されてすげー舞い上がって教室まで行ったのに、先生からって……。すげぇ落ちて、気分はもうエンマ大王に〝失恋決定!〟って判決下された気分だった」
力なく笑う響哉くんに、寧々さんが首を傾げる。
「でもこの子も渡そうとしたって言ってたわよ。その、カミラ先生からじゃなくて自分からのチョコを」
響哉くんはしばらく考え込んでから、「……あ」とわずかな声をもらす。
「でも……そういえば、先生からのチョコの他にも、チョコっぽいもの持ってた気がする……」
うろ覚えだった記憶が、どんどんと鮮明になっているみたいだった。
「……うん。持ってた。たしかに。あれが明日香からの……?」
目を合わせ聞かれ、コクンとうなづく。
響哉くんは大きなショックでも受けたみたいな顔をして……それから、くしゃりと思いきり顔を歪め、うつむく。
「……ごめん」と小さな謝罪が聞こえると、寧々さんが呆れたような声で言う。
「響哉、この子が絡むと気が逸りすぎなのよ。もっと余裕持ちなさい。あと、意地悪な態度も改めないと。こんなふうに泣かせたくないでしょう?」
厳しい口調に、響哉くんは少し間を空けてから「……うん」と短く答えた。
それから「明日香、帰るよ」と私の手をとった。