意地悪な彼ととろ甘オフィス
「……だけど?」
「途中から、こんなんじゃダメだと思った。だから、部活頑張って全国大会出たり、就職してからは必死に仕事して結果を残したり……そしたら、明日香も俺を見てくれるんじゃないかって」
困ったような微笑みを浮かべた響哉くんに、ひとつ思い当って、あ……と思う。
私をおんぶして帰ってくれたとき。
仕事頑張ってるって褒めたら、響哉くんは耳を赤く染めていた。
あれって……。
まさか、響哉くんがそんなふうに考えてくれているとは思ってもみなかったから驚いていると、そんな私の頬に響哉くんが触れる。
「この瞳に、どうしても俺を見て欲しかった」
頬をすりっと撫でる手に、自分の手で触れる。
ゴツゴツした節ばった優しい手に、涙がじわっと浮かんだのがわかった。
「でも……そうやって他のことで頑張ってみても、一度変えた態度だけはどうしても戻せなくて……。傷つけようとしたわけじゃねぇのに。全然優しくできなくて……ごめん」
最後、小さな声で「本当にごめん」と言った響哉くんに、胸が苦しくなった。
私もわかるから。
響哉くんに冷たくされて、手を伸ばすのが怖くなった。それどころか、話しかけるのもためらうようになった。
そこにずっとショックを受けてきたけど……最初にそれをしてしまったのは私の方だったんだ。
響哉くんも私と同じで、話しかけることが怖かったんだ。
そう思うと、今までのこと全部どうでもよくなってきてしまう。
だって私は、ずっとこうして響哉くんと仲良しに戻りたかったから……それが叶うなら、もうどうでもいい。
「結局、一度も好きだって言えてないくせに、明日香にちょっと傷つくこと言われたからって塞ぎこんで……ほんと俺、カッコ悪い」
はぁーっとため息をついた響哉くんが顔を上げる。
そして射抜かれるんじゃないかってくらいに真面目な眼差しを向けてくるから、心臓が驚いたように音を立てた。
響哉くんは私の手をとり「……ねぇ」と低く甘い声で言う。