意地悪な彼ととろ甘オフィス
「好きだよ。どうしたら俺のものになってくれる?」
響哉くんの瞳が強い意志を持って見つめてくる。
逸らされない視線に、目の奥にたまっていた涙がじわりと溶けだした。
触れ合っている手も、同じ空間で会話できることも、全部が嬉しい。
少し酔いが醒めてきて、ふわふわ浮いていた頭の中がようやく落ち着く。
それと同時に急に緊張が襲ってくる。
響哉くんと、膝付き合わせて話すなんていつぶりだろう。
意識したらもうダメだった。
「あの、響……な、成瀬さん……」
「〝響哉〟。……なに、酔いが醒めてきた?」
呼び方を訂正した響哉くんに聞かれてうなづく。
「うん。急に実感っていうか……」
目を合わせ「あの、響哉くん……」と呼ぶと、「うん」と返事をされ少しホッとする。
さっきまでアルコールに任せて散々連呼してたし結構すごい発言もした気がするけど、この呼び方をしても嫌がられないんだと安心した。
ふふっと笑みをこぼすと「明日香?」と聞かれるから、またニヤけてしまう。
「ううん。前みたいに呼んでくれるのが嬉しくて」
「あー……それは本当にごめん。なんていうか、初めは思春期特有のもんで……大人になってからもずっと、引っ込みつかなくて、わざとらしく〝日向サン〟なんて呼んで傷つけてごめん」
気まずそうに謝ってくれる響哉くんに首をふる。
「意地悪な態度で〝日向サン〟って呼んでても、響哉くんは、私が困ってるときは助けてくれたから。優しくしてくれたから……もういいよ」
手をぎゅっと握り返しながら微笑むと、響哉くんはわずかに不貞腐れたように眉を寄せ私との距離を詰める。
膝がくっつく距離に思わず腰を引こうとしたけど、繋がったままの手がそれを止めた。