意地悪な彼ととろ甘オフィス
「ん……」
アルコールを飲んでいた時みたいにふわふわとしだした頭に、もう全部がどうでもよくなってきていたとき、背中がひんやりと冷たくなった。
目を開けると景色が反転していて……響哉くんが私の上に馬乗りになっている。
キスに溺れもうどうにでもなれとは思ったけれど、さすがに押し倒されるまでは想像していなかっただけに、とろけそうだった思考回路が一気に覚醒した。
親が不在というこの状況が、余計に危機感をつのらせる。
上から再びキスしようとしてくる響哉くんの胸をぐぐっと押し「待って……っ」と騒ぐと、眉を潜められた。
「……なに?」
「え、だって……待って。なにするつもり……?」
「なにって……」
「や、やっぱり言わなくていい……!」
響哉くんの口から直接的な単語がでたらもう逃げられない気がして、慌てて止める。
急展開に、私がどうしようとパニックになっている間も響哉くんがキスしようとしてくるから、自分の口を手で隠すように塞いだ。
「明日香。キスさせて?」なんて、聞いたことのないような甘ったるい声でねだられて、胸はきゅんとしてしまっているけれど、ぐっと耐える。
そんな私の態度に、これ以上はする気がないと悟ったらしい響哉くんは不機嫌な顔つきになる。
「言っておくけど。このまま我慢するとか無理だから」
「……おかしくない? さっき、両想いになったのにすぐって」
「でも、お互いずっと好きだったなら当然の流れでしょ」
「だ、だけど、普通はもっと時間をかけて――」
言い切らないうちに、口を隠していた手をはがされ、顔の横でそれぞれ押さえつけられる。
力の差に驚く間もなくキスされ、びくっと身体がすくんだ。
さっきとは違う荒々しい強引なキスに戸惑っていると、唇を離した響哉くんが不愉快に歪めた目で私を見た。