意地悪な彼ととろ甘オフィス


 ***


「寧々さん、これ。お口に合うかわからないですけど」

二月十四日。四角い箱を渡すと、カウンターの向こうに立つ寧々さんが「あら、チョコ?」と顔をほころばせる。

二十一時の店内は、そこまで混み合っていない。
寧々さんが言うには、恋人のイベント日は普段よりも空くらしい。

カウンターには私しか座っていなかった。

「はい。洋酒入りなので、寧々さん好きかなって思って」
「これ、いいところのじゃない。高かったでしょうに……いいの? もらって」
「はい。いつもお酒ごちそうになってますし、たいしたお礼にもなりませんけどもらってください」

初めてここに来てから、三ヵ月ちょっと。
その間、五回はきているけれどお代を受け取ってもらえた試しがない。

そのぶん、響哉くんは高めに請求されてるらしいけれど、それでもお店からしたらマイナスだ。
だから、高級なチョコを見かけたとき、寧々さんが喜んでくれるかもしれないと思い、すぐに手を伸ばした。

「ありがとう。じゃあ、さっそくいただこうかしら」

寧々さんがラッピングを綺麗に開けていき、中の箱をパカッと開ける。

プラスチックのケースのなかに入っているのは、洋酒付したフルーツにチョコレートがトッピングされているものだ。
オレンジに、苺、マスカット色んなフルーツがある。

「あらー、きれいねぇ」

喜んでくれている様子に、安心していたとき。
ガコン、と壊す勢いでドアが開き、バタバタと騒がしい足音が近づいてきた。

見れば息を切らした響哉くんが、機嫌悪そうな顔で私を見ていた。

ネクタイは曲がってるし、コートの前もとめていない。マフラーなんて首から下げている状態だ。
よほど急いできたらしい。


< 49 / 58 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop