意地悪な彼ととろ甘オフィス
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「寧々さん、これ。お口に合うかわからないですけど」
二月十四日。四角い箱を渡すと、カウンターの向こうに立つ寧々さんが「あら、チョコ?」と顔をほころばせる。
二十一時の店内は、そこまで混み合っていない。
寧々さんが言うには、恋人のイベント日は普段よりも空くらしい。
カウンターには私しか座っていなかった。
「はい。洋酒入りなので、寧々さん好きかなって思って」
「これ、いいところのじゃない。高かったでしょうに……いいの? もらって」
「はい。いつもお酒ごちそうになってますし、たいしたお礼にもなりませんけどもらってください」
初めてここに来てから、三ヵ月ちょっと。
その間、五回はきているけれどお代を受け取ってもらえた試しがない。
そのぶん、響哉くんは高めに請求されてるらしいけれど、それでもお店からしたらマイナスだ。
だから、高級なチョコを見かけたとき、寧々さんが喜んでくれるかもしれないと思い、すぐに手を伸ばした。
「ありがとう。じゃあ、さっそくいただこうかしら」
寧々さんがラッピングを綺麗に開けていき、中の箱をパカッと開ける。
プラスチックのケースのなかに入っているのは、洋酒付したフルーツにチョコレートがトッピングされているものだ。
オレンジに、苺、マスカット色んなフルーツがある。
「あらー、きれいねぇ」
喜んでくれている様子に、安心していたとき。
ガコン、と壊す勢いでドアが開き、バタバタと騒がしい足音が近づいてきた。
見れば息を切らした響哉くんが、機嫌悪そうな顔で私を見ていた。
ネクタイは曲がってるし、コートの前もとめていない。マフラーなんて首から下げている状態だ。
よほど急いできたらしい。